《ルターと疫病》 2020.12.20

              

  ルターの生きた中世末期はペストの時代であった。つまり死と隣合わせの時代であった。したがってルターの神学とは「メメント・モリ(死を忘れるな)」の神学である。

  そうした中、ルターはある牧師の質問に答えて、ペストをめぐる公開書簡を書いている「人は死を逃れうるか」。なかなかに重厚複雑な書簡であり、様々な読み取り方ができるであろうが、私なりの解釈を記しておきたい。ポイントが二つある。一つは理論的な問題、もう一つは実践的な問題である。

  まず第一。ペストが蔓延している時、人は(特に聖職者は)避難してよいかどうか。ある人は、信仰を持っているので避難する必要なしと考えた。ここでこそ信仰が試される、と考えたのである。

  しかし、ルターの結論ははっきりしている。どちらでもよい。状況に応じて避難してもよし、留まってもよし。実はもっと大切な問題がある。それは、信仰に裏打ちされた隣人愛に基づく責任ということである。

  病者がいる時、医者は避難しない。苦しむ人がいる時、その人を一人にしてはいけない。つまり問題は、キリスト教的に言えば、隣人愛に基づく責任の問題なのだ。

  今日ともすれば、キリスト者は礼拝問題にのみ頭を悩ませているが、歩を一歩すすめる「愛の業」が大事なのである。  

  そして第二、実践上の問題。ルターの信仰上の教えは、実に具体的である。彼はこう書いている。「薬を飲みなさい。助けになることは何でもしなさい。家や通りを消毒しなさい。必要もないのに人に会ったり、不必要な場所に行ったりすることは避けなさい」。

 人はペストに直面して、どう考えどう行動すべきか。コロナウィルスに直面している私たちに、ルターは同じことを語りかけることだろう。

       「ルター研究所ニュースよりの抜粋」

「あなたの隣人を自分自身のように愛しなさい。

  これよりも重要な命令は、ほかにありません。」

           マルコ12章31節